和歌と俳句

藤原季通

いかにして 憂しと思はで 恋をせむ 嘆きは人の おふとこそきけ

いくたびか かへして寝まし 身にふれて 下に重ねし 衣ならずは

嘆きつつ おほくの年を 重ねつる 夜半の衣の かからましかば

思ひやれ 身の数ならぬ 嘆きをも 忘るる程の 恋のこころを

千載集・恋
いまはただ 抑ふる袖も 朽ちはてて こころのままに 落つる涙か

こよひしも うたても鹿の 鳴くなるか ひとり寝覚めの 床と知らずや

おのづから 恋ひやすらむと おぼゆれば みとみる人の あはれなるかな

わが恋は 頼めて後に 辛ければ 涙の色の 薄く濃きかな

言の葉に なぐさむべきを いかなれば あはれとだにも いふ人のなき

わが恋を 寝ては夢に見 覚めぬれば おもかげにたつ 逢はぬ間ぞなき

いまはただ わが身の程ぞ 見まほしき こころにいれて 君をおもへば

いかにせむ 生けらぬ身とも なりなばや 死ぬとし聞かば あはれとやいはむ

逢ふことは わかげよそひの 君なれや 年はゆけども させるともなし

わが恋は 水無きときの 池なれや つつみながらに いひもはなたぬ

わか恋は 小笹が原の 露なれや ことの葉ごとに こころおかるる

閨のうちに ちたびやちたび ふしかへり わびしげなくや ひとり寝る夜は

嘆きつつ 床もさだめぬ うたたねは うたても夢の 程もなきかな

いまはさは 人も通はず いかにして 君があたりの 風にあたらむ

逢ふことは 命にかへし しるしにや 今朝は出づべき ここちせざらむ