和歌と俳句

藤原季通

いせをしも うべ神風と いひけるか ねぎごとはてて いへるすずしき

石清水 縁を結べる 人はみな うるほひを得ぬ ことのなきかな

はこやには 二人の君の もろともに 春と秋とに とめるとぞきく

佐渡の海 阿波の鳴門を 鎖しながら たにつくるまで 君はましませ

こころこそ うしのくるまを かけわたる 法をし深く 頼む身なれば

人毎に 仏のたねを ありとかや 数ならぬ身は いかがとぞおもふ

西方に あみだほとけは ますなれば ことわりなれや 南無と唱ふる

いかにして よもぎのかどを たち出でなば やがて蓮に やどをうつさむ

あるならず またなきならず ありなしに なほしもあらぬ ことやなになる

千載集・雑歌
いとひても なほしのばるる 命かな ふたたび来べき この世ならぬを

千載集・雑歌
うつつをも うつつといかが さだむべき ゆめにもゆめを 見ずばこそあらめ

おほかりや たち別れての 名残には あはれ言はでと 思ふことのみ

みさぶらひ みかさなめしそ 浅香山 このした露も いまは干ぬらむ

千載集・羇旅歌更級や 姨捨山に 月みると みやこに誰れか われをしるらむ

なによりも はかなきことは 夏の夜の 化野の辺の 旅寝なりけり

おぼつかな このしたがえか 武隈の 松をよきとぞ 見て過ぎにける

音もせで 来にける人を 何せむに 繰り返しわが さそひやりけむ

世にふるは わが大君の あはれてふ なげの言葉を まつと知らずや

詞花集・雑歌
厭ひてもなほ惜しまるる我が身かなふたたび来べきこの世ならねば

千載集・春
見て過ぐる人しなければ卯の花の咲ける垣根や白川の関

千載集・恋
歎きあまり 憂き身ぞいまは なつかしき 君ゆゑ物を 思ふと思へば