和歌と俳句

藤原季通

秋風の 吹かぬかぎりは ひとり守る 山田のひたに いとまなきかな

年へたる 岩に散り敷く もみぢ葉は これや苔ぢの 錦なるらむ

かたがたに 散るもみぢ葉を かきつめて わがやどにのみ 秋をとどめむ

おぼつかな 月と紅葉と いづれをか まことの秋の 色とさだめむ

身の憂さを 思ひねざめの 鹿のねは われさへ声の 惜しまれぬかな

いづこにも 秋はかはらぬ ものなれど なほ山里は 悲しかりけり

言問はむ 五百代小田の みたやもり さてその稲は いかばかりぞも

千載集・秋
ことごとに 悲しかりけり むべしこそ 秋のこころを 憂へといひけれ

わが命 秋のためにぞ 惜しまるる 秋し過ぎなば 惜しけくもなし

さらさらに いやは寝らるる 山里の あしふくやどに 時雨する夜は

冬深み 枯野を見てぞ ゆくすゑの わが身の上は 思ひ知らるる

澪により 流るる水も こほりして おとなし川と なりにけるかな

年をへて 積める嘆きを この冬の よろこびもかな 焚きつくしてむ

千載集・冬
冴えわたる 夜半のけしきに み山辺の 雪の深さを そらにしるかな

鴛鴦の あたりの水は こほらずと ききしは冴えぬ 夜半のことかも

冬のかげ うつしとどめば 昆陽の池の 氷の鏡 出で見ざらめや

炭竃の せれうの里の けぶりをば まだき霞の 立つかとぞみる

巻向の 穴師の山の うぐひすは いま幾日とか 春を待つらむ

年はみな 暮れていぬれど わが身には 得たることなき 嘆きをぞする