高浜虚子
枯芝を尻に背中につけてをり
人住んで売屋敷なり枇杷の花
風呂吹きを釜ながら出してまゐらする
葱多く鴨少し皿に残りけり
納豆汁も富みて嗜めば奢かな
里神楽柿くひながら見る人よ
重なりて眠れる山は鞍馬かな
毎日の笹鳴きに居る主かな
磯畑の千鳥にまじる鴉かな
牡蠣の酢の濁るともなき曇りかな
月明りに粉炭乏しくなりにけり
日の当る焚火煙や濃紫
耳遠く病もなくて火燵かな
尼君の寒がりおはす火桶かな
おしおして遂にふせりぬ風邪の妻
マスクして揺れて居るなり汽車の客
大いなる手袋忘れありにけり
人形の足袋うち反りてはかれけり
虎落笛眠に落ちる子供かな