和歌と俳句

種田山頭火

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肌に湿布がぴちたりと生きてゐる五月

草からとんぼがつるみとんぼで

こんなところにがこんなに大きく

おててふつておいでもできますさつきばれ

雑草につつまれて弱い心臓で

寝床から柿の若葉のかがやく空を

柿若葉、もう血痰ではなくなつた

病んでしづかな白い花のちる

蜂がにぎやかな山椒の花かよ

ぶらぶらあるけるやうになつて葱坊主

あけはなつやまづ風鈴の鳴る

山ゆけば山のとんぼがきてとまり

あれもこれもほうれん草も咲いてゐる

蛙とほく暗い風が吹きだした

病めば寝ざめがちなる蛙の合唱

五月の空をまうへに感じつつ寝床

死にそこなつたが雑草の真実

風は五月の寝床をふきぬける

ねむれない夜の百足が這うてきた

這うてきて殺された虫の夜がふける

日だまりの牛の乳房

草の青さで牛をあそばせてゆふべ

てふてふつるまうとするくもり

暮れてふるさとのぬかるみをさまよふ

向きあうて湯のあふるるを

風はうつろの、おちつけない若葉

やつと家が見えだした道でさかなのあたま

おもひではそれからそれへをむきつつ

たどんも一つで事足るすべて

雑草そのままに咲いた咲いた

おもさは雨の花のあかさ

けふも雨ふる病みほうけたる爪をきらう

雨のふゆべの人がきたよな枯木であつたか

どうやらあるけて見あげる雲が初夏

山はひつそり暮れそめた霧のたちのぼる

サイレンがながう鳴りわたる今日のをはりの

病みて一人の朝となり夕となる青葉

雑草咲くや捨つべきものは捨ててしまうて

草や木や死にそおなうわたしなれども

五月の空の晴れて風吹く人間はなやむ

生きて戻つて五月の太陽

けさは水音の、よいことがありさうな

葱坊主、わたしにもうれしいことがある

湯あがりの、かきつばたまぶしいな

竹の葉のうごくこともなくしづかなり

土は水はあかるく種おろしたところ