和歌と俳句

源国信

神無月 まだ冬構へ せぬものを とりもあへずも あるるけふかな

千載集・冬
み山辺の しぐれてわたる 数ごとに かごとがましき 玉柏かな

みちしばの 霜うちはらふ 袖さえて また夜ふかくも いでにけるかな

あづまやの しづのすがきの 下冴えて 山とよむまで ふるなり

吉野山 遠つ川上 深み 煙や民の 家居なるらむ

真菰刈る 玉江の葦も 霜枯れて 深くも冬に なりにけるかな

新勅撰集・冬
とも千鳥 群れて渚に 渡るなり 沖の白洲に 潮や満つらむ

夜を寒み 川戸の氷 あつければ あさけの水を 汲みてわづらふ

水鳥の すだくみぎはの うす氷 割れても鳰の かづくなるかな

たなかみの 瀬々の網代に 日をへつつ わが心さへ よするころかな

榊とり ゆふしであそぶ 冬の夜は 天の岩戸も あけぬべきかな

吹き渡す 比良の吹雪の 寒くとも ひつぎのみ狩 せでやまめやも

山深み 焼く炭竃の 煙こそ やがて雪げの 雲となりけれ

埋火の 下に焦がるる けしきこそ つれなき人に 見せまほしけれ

何事を 待つとはなしに 明け暮れて 今年も今日に なりにけるかな

ゆきかよふ 仲人たてて 今日こそは おもふこころを ほのめかしつれ

うちたえて ながめだにせず 恋すてふ けしきを人に 見せじと思へば

新勅撰集・恋
くりかへし あまてる神の 宮柱 たてかふるまで あはぬ君かな

憂きことを いかで知らせむと 思ひしは 逢はぬかぎりの 心なりけり

露おけば あさえのいでの 白まゆみ 帰る侘しき 今朝にもあるかな

あひてあはぬ 恋する人の またもあらば われをたづねて とはましものを

たちかへり 駒の行き交ふ 程ならば たかはかりしき ひとり寝ましや

水引きの 沫緒の糸の 一筋に わけずよ君を 思ふ心は

いかにして なほるばかりに 凝らしめむ おもひにまけぬ こころつよさを

うらむれば かひなかりけり 今はただ 人を忘るる ことを知らばや