和歌と俳句

木村蕪城

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水汲みに下りし鳥屋師の灯とあひぬ

炉に焦がす鳥屋師の結飯かへしやる

昼過ぎて杣の馬ゆく鳥屋みち

短日の蔀戸あげて櫛造る

短日や黄楊の小櫛のけづり屑

さかんなる茎菜洗ひを旅に見る

裾長に多摩の里人冬耕す

寒燈下心移りて時過ぐる

人遠く低き冬日のもとにあり

きさらぎの野の土掻けばつくづくし

耕人を見てたたづみて吾弱し

啓蟄の土踏み何かつとめたし

梅に宿る炉火ひたすらに焚きつぎて

戸襖に炉火てらてらと梅の宿

信これに添はず春愁の経を読む

炉辺したし伊豆も信濃とことならず

菜の花や夜は家々に炉火燃ゆる

焚く榾のとぼしき留守をあづかりぬ

僧は留守茎立つままに畑のもの

古寺を守り倦む椿落ちくだち

櫛買へば雛の酒とて饗しぬ

櫛造るうしろに暗き炉の間かな

霧に濡れ分教場の子等あそぶ

縄帯をして霧雨に濡れ佇てる

風花や木曽の御料の槙檜

落葉松の芽にどろどろと雷起る

道のべにおきある籠に夏蕨

山住のこころ足らふや夏蕨

春霜のきびしき城の辺に出づる

霜害の桑にそばたつ槍穂高

ねむれねば旅のごとくに明易し

滝水に漱ぎてけふのいのちあり

経日日滝のひびきに読みならふ

岩に身をよこたへいこふ滝を前

経倦めば滝のひびきに聴き入りぬ

梅雨の月城頭にあるを見て泊る

桑刻む音をはばかり泊めまうす

片陰の街の往来に恵那聳ゆ

端居せる家のここより木曽路なる

くらがりに子がゐてひさぐ盆のもの

露草の瑠璃いちめんの昼寝覚

一位の実とりて含みぬ禰宜が妻

葭簀ごし月のしゐる鯉の水

稲刈に沼舟ちかく来て漁る

もぎのこるくわりん四五顆に湖光る

十三夜くぐり障子に炉火燃えて

十三夜炉辺をへだつる小衝立

綺羅星のもとに林檎を食べて憩ふ

むしり羽のまひつつ鳥屋の炉火さかん

鶫焼きしあととおぼしき山路かな

旅に病むくわりん砂糖漬ただあまし

炬燵寝の若者起きて餅を搗く

一穂の除夜のみあかし枕上

仮住の身に一穂の除夜の燭