和歌と俳句

夏草

夏草に生く人見ゆる羨まし かな女

夏草に黄色き魚を釣り上げし 虚子

夏草やバケツ振り振り子供来る 立子

夏草の、いつ道をまちがへた 山頭火

夏草ふかい水底の朝空から汲みあげる 山頭火

夏草に温泉宿はかくれけり 普羅

夏草に隠し置くなる水棹かな 櫻坡子

夏草に汽罐車の車両来て止る 誓子

いちめんの夏草をふむその点景の私として 山頭火

ともかくもけふまでは生きて夏草のなか 山頭火

天翔りし人夏草を踏みしむる 草城

憩ふ翼灼けて飛行機夏草に 草城

夏草や野島ケ崎は波ばかり 草田男

激戦のあと夏草のすでに生ひぬ 多佳子

朱ヶの月出て夏草の鋭さよ 茅舎

夏草やまがたらの葉もくさのかず 石鼎

はりついて蛾居る玻璃戸や夏の草 石鼎

夏草や母親のみな衣黒し 汀女

濤おらぶ夏草藪とけじめなし 草田男

夏草は闌け高原の道通ず 蛇笏

竜彫りし陛の割目の夏の草 虚子

街燈更けて夏草芝居の草のさま 草田男

紀の川は夏青草に烏ゐて 綾子

夏草とともに病髪伸びやすし 誓子

夏草や手ふれてみたき仏の手 楸邨

捨猫に夏草青く一坪ほど 林火

夏草に延びてからまる牛の舌 虚子