霜の置く あかつきがたに 野を越えて たきぎ樵りにと 山人ぞ行く
峰つづき 松のこしげく 見ゆるかな これや千歳の 山路なるらむ
呉竹の 生ふる籬の 草なれば 払ひもあへず 夕露ぞ置く
年経れば 苔のみつらを ゆひかけて 岩のすがたは 神さびにけり
君が代の ためと群れゐる たづなれば 千歳をかねて 遊ぶなりけり
うばそくが おこなひすらし まきの立つ あらやまなかに まふしさしつつ
桂川 照る月影の やどる夜は 藻にすむ魚ぞ 底に見えける
見渡せば 嵯峨も枯野と なりにけり 今や小倉も 紅葉散るらむ
白河の 関にや秋は とまるらむ 照る月影の 澄み渡るかな
波を踏む ここちこそすれ 川霧の 晴れ間も見えず たてる宇治橋
手もたゆく 浦つたひして こぐ舟は 沖のなごろを おつるなるべし
旅人の 板間の合はぬ あづまやに やどるこよひぞ あまそそぎする
あま人の 玉藻かりつむ 舟なれど 漕ぎ別るるは 悲しかりけり
雲かかる 山のたかねの あばらやは 月のやどるぞ うれしかりける
群れてゐる 田中のやどの むら雀 わがひく引板に 騒ぐなるかな
春の丘に のぼりて見けむ たかとりは 神の代ならぬ ことをしぞ思ふ
叶ふやと 亀のますらに 問はばやな 恋ひしき人を 夢に見つるを
かげろふの あるかなきかの 身ときけば いとどますます あだし世の中
出づわれを わが撫子の 残り居て 今は昔と ひとり偲ばむ
にぎははぬ 民のかまども あらじかし 国さかえたる 君が御代には
金葉集・雑歌
けふぞ知る 鷲の高嶺に 照る月を 谷川くみし 人のかげとは
千載集・夏
逢坂の 山ほととぎす なのるなり 関守る神や 空に問ふらむ
千載集・恋
たち帰る 人をも何か 恨みまし 恋しさをだに とどめざりせば
新古今集・恋
追風に 八重の鹽路を 行く舟の ほのかにだにも あひ見てしがな
新勅撰集・春
たちかへり またやとはまし やまかぜに はなちるさとの ひとのこころを
新勅撰集・夏
くもぢより かへりもやらず ほととぎす なほさみだるる そらのけしきに
新勅撰集・秋
あさまだき たをらでをみむ 萩の花 うは葉のつゆの こぼれもぞする