われとわが雪ゆり合へる竹数本
もつれては宙に遊べる雪の翳
落葉すや木曾の塗師の門ひろく
停電の闇に眼をあげ落葉きく
枯野の路の三猿塚をよしと見き
落日の枯野ゆく子のうたへるや
潮騒の寝をなさしめず年徂く夜
枯草に鴨の彩羽をむしりすつ
山光や寒天に聳つ木一本
寒行太鼓時にみだるる月吹く夜
雪風の夜をさざめけり人形は
ひら仮名の雀のお墓霜ざれぬ
山鳥に翔たれつまづく雪の嶮
冬の蠅二つになりぬあたたかし
夜明け待つ心相寄る野の焚火
山の灯が見えねばさびし月の冬
家をめぐりて今年の夕日おくるなり
寒鰍水底の石に喰ひ入りぬ
雲せめぐ空に散り葉の相追へり
石一つ一つ光りをる霜の月
鵯のそれきり鳴かず雪の暮
火鉢にかざす手の中の我が指の骨
誰もゐねば火鉢一つに心寄る