和歌と俳句

富安風生

初暦かけ古暦まだ用あり

獅子舞に山手暮色雪降り出す

美しく神木枯るる詣かな

雀躍に福藁のまだよごれなき

縫初の句を詠めば母懐かしき

喜寿の賀をすなほにうけて老の春

横のものを縦に直して座右の春

摺墨と媾ふ肌匂ひ初硯

元日暮れ七十九齢一と日過去

繭玉にへらへらうすき千両箱

水引の結びもあまる小松引

蓬莱のしたり尾長く傘壽の賀

去年の鐘今年へ余韻ひきにけり

たぶたぶと福茶を祝ひ老四人

為し得ること何をか残す老の春

うれしさとやや淋しさと老の春

忘恩の凶と出でたる初みくじ

頽齢の舌にとろりと屠蘇甘し

雲に一微紅みるみる初日

群鳶の舞なめらかに初御空

命惜してふこといつはらじ老の春

誇りとはゆめ思はねど年の花

死ぬまでは生きねばならぬ手毬手に