和歌と俳句

水原秋櫻子

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

星空を闇とは見せつ酉の市

吹きおろす神の紅葉や貴船川

秋寂びし苔踏ませじと門をとづ

嵯峨菊の暮光も天にのぼりけり

嵯峨菊の夕日をへだつ写経の間

水仙や風の名残の濤の声

初日さす林の窪に池のあと

凧の絵や悪鬼が奪ふ己が腕

あづま路は猿ほめはやす手毬唄

泉声の絶えしほとりや寒施行

大ぶりの椀の湯漬や寒稽古

残菊や一邑毎に山迫り

谷の湯は新雪凍る梅もどき

雪の懸巣霊泉由来つたへけり

雪の湯に足迹ぼこす聖かも

風花や湯槽あまたに人ひとり

岩窪は散紅葉のみ法師川

風花や青淵ひとつ置ける谿

越は吹雪谿片照りに利根郡

白魚舟戻るを待てり傘さして

紅梅や硯にも彫る梅と禽

黄塵や垣くぐり来る四十雀

春蘭や小瀧の多き裏高尾

うぐひすや障子の影も胸張りて

簷ぬらす雨の糸あり櫻餅