和歌と俳句

水原秋櫻子

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伸びてくらき典医の家構

芍薬や棚に古りける薬箱

旅人の魚板打つなりほととぎす

梅雨の鯉澄めり門辺を水ながれ

梅雨の瀬やうぐひ渦巻く幾ところ

草刈るや栄光のこす邪宗門

梅雨雲こめて雪舟の庭くらし

紫陽花や往昔切支丹来朝図

辻の靄朝顔市へ辻いくつ

明けゆくや朝顔市に水打たれ

市の日の朝顔ならぶささのゆき

蚊遣して暁起きのささのゆき

招かれて古江見てをり土用丑

霧ふかく酔いまだしや酔芙蓉

つゆけさの一輪珠に酔芙蓉

袖の如ひるがへる葉や酔芙蓉

邯鄲やしばし霧吹く御師の門

邯鄲や風の葉音は葛ばかり

邯鄲をとる灯の葛を染めにけり

虫籠の邯鄲淡く声あはし

ナイターの遠空染めて雨月なり

龍膽や嶺にあつまる岩の尾根

龍膽や沖の耳とてとがる巌

束ねてはむらさき勝てり畑の

ふるみちや伊賀の時雨に菊濡れて

落葉焚禽の古巣も焚くけむり

山松をまづけぶらしぬ落葉焚