五月来ぬ心ひらけし五月来ぬ
葉桜の雨や家居のかなはぬ身
大玻璃のくもり卯の花腐しかな
早苗束毬藻の如く浮みたり
ふるさとは卯つ木花咲き温泉溢れ
涼風のあふぐが如く渡り来る
人形の話に興じ梅雨籠
雲の峰人間小さく働ける
つと止る蜥蜴大地にま一文字
縁柱細り涼風起りけり
十薬の花咲きたてや草の中
今日殊に暑しといひて烏啼く
紫陽花や人見る犬の怜悧な目
老鶯の谺の比叡の坊泊り
素袷や時代は移り変りつつ
新樹みな幹まつ黒に雨どどど
鉄線の溢れ咲きつぎ濃紫
乗るまでもなし大佛へ日傘さし
長停電薄暑の長野駅の鳩
草刈女噂話は声ひそめ
あごがくと鳴らしあくびし梅雨無聊
青嵐日向に出でし人光り
かみそりのやうな風来る梅雨晴間
かたばみや何処にでも咲きすぐ似合ひ
明易やまだ日当らぬ森の家