新古今集・羈旅
草枕 旅寝の人は こころせよ ありあけの月も かたぶきにけり
武隈の 松の緑は 新玉の 年とともにや 深くなるらむ
年を経て おひそふ竹の 枝しげみ しげくぞ千代の 影は見えける
千載集・雑歌
葛城や 渡しもはてぬ ものゆゑに 久米の岩橋 苔生ひにけり
難波潟 たづぞ鳴くなる これやこの 民の野島の わたりなるらむ
あらしふく こぐれの雪を うち払ひ けふ越えぬるや 小夜の中山
隅田川 井堰にかかる 白波の たちかへるべき ここちこそせね
秋の野を こころのままに わけゆけば おのが色色 咲ける花かな
あづまぢの 浜名の橋の 橋柱 波は折れども またたてりけり
淡路島 絵島が磯に あさりする たななしをぶね いくよへぬらむ
さよなかに 思へば苦し みちのくの 安積の沼に 旅寝しにけり
たちわかれ はつかあまりに なりにけり 今日や勿来の 関を越こゆらむ
山里は ねざめの床の さびしきに 絶えずおとなふ だき枕かな
わぎもこが 柴刈りふける ひまをあらみ かど田の庵に 月ぞ洩り来る
金葉集・雑歌
いたづらに 過ぐる月日を かぞふれば 昔をしのぶ ねこそ泣かるれ
わくらばに 恋ひしき人に 逢ふとみる うれしき夢は さめずもあらなむ
はかなきを 思ひ知らずは なけれども あらましにのみ 日を暮らすかな
詞花集・雑歌
身のうさは 過ぎぬるかたを 思ふにも いまゆくすゑの ことぞかなしき
君が代は ながゐの浦に ひまもなく 群れゐるたづの 齢なるべし
金葉集・別離
伊勢の海の をののふるえに くちはてで 都のかたへ 帰れとぞ思ふ
詞花集・雑歌
春日山 北の藤波 咲きしより さかゆべしとは かねてしりにき