往還に五月の崖を赭く断つ
麦秋や奔流谷を出で来る
たかんなの土出でてなほ鬱々と
桐の花電線二本過ぎゆくも
巣の雀家居の吾を又覗く
こころよく河鹿鳴く瀬に指涵す
河鹿鳴くこゑ断崖にむらがれり
六月のゆふべや肩に道具箱
としよりの咀嚼つづくや黴の家
あをぎりの脂を垂るや蝸牛
曇天の殻青白き蝸牛
せまき巣にひらく燕の翼見ゆ
巣つくりの藁空中に曳いてとぶ
風来る葭切啼ける行手より
いつぽんの道葭切と電柱と
かはせみや電線うつる江を溯り
かはせみや臭木の枝を翔つて去る
俯向いて蟻は真暗き穴に没る
身を浸けて蟹が水飲むことあはれ
わが家よりキヤムプの為せることを見る
両眼を低くして蟹穴を出づ
炎天の犬や人なき方へ行く
夕焼の天の隅々うらがなし
新緑ややはらき地に材を置きて
新緑や旅する肘を汽車に見る
憩ひたるかの緑蔭の真黒に
虹のぼりゆき中天をくだりゆき
晩涼に臥しゐし髪の砂払ふ