和歌と俳句

千載和歌集

哀傷

藤原道信朝臣
年をへて君が見なれします鏡むかしのかげはとまらざりけり

赤染衛門
つねよりもまたぬれそひしたもとかなむかしをかけて落ちし涙に

御返し 上東門院
うつつとも思ひ分かれで過ぐるまに見し世の夢を何語りけん

源実基朝臣
みやこへと思ふにつけてかなしきはたれかはいまは我を待つらん

平雅康
もろともに春の花をば見しものを人におくるる秋ぞかなしき

前中納言匡房
花と見し人はほどなく散りにけり我が身も風を待つと知らなん

藤原顕綱朝臣
かわくよもなき墨染のたもとかな朽ちなば何を形見にもせん

権中納言俊忠
墨染のたもとにかかるねを見ればあやめも知らぬ涙なりけり

返し 中納言国信
あやめ草うきねを見ても涙のみかくらん袖をおもひこそやれ

藤原基俊
おもひやれむなしきとこをうちはらひむかしをしのぶ袖のしづくを

贈皇后宮似子
胸にみつおもひをだにもはるかさでけぶりとらなんことぞかなしき

藤原有信朝臣
もろともに有明の月を見しものをいかなる闇に君まどふらん

慶範法師
打ち鳴らす鐘の音にや長き夜も明けぬなりとは思ひ知るらん

崇徳院御製
かぎりありて人はかたがた別るとも涙をだにもとどめてしがな

御返し 上西門院兵衛
ちりぢりに別るるけふのかなしさに涙しもこそとまらざりけれ

静厳法師
かなしさをこれよりけにやおもはましかねて習はぬ別れなりせば

天台座主勝範
墨染の色はいづれもかはらぬをぬれぬや君が衣なるらん

鳥羽院御製
つねよりもむつましきかなほととぎす死出の山路の友とおもへば

久我内大臣雅通
心ざいふかく染めてし藤衣着つる日数のあさくもあるかな

大宮前太政大臣伊通
たぐひなき憂きこと見えし宿なれどそも別るるはかなしかりけり