和歌と俳句

日野草城

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

朝寒や白粥うまき病みあがり

朝寒やそぞろに日射す苔の庭

朝寒やきりりとかけし緊襷

朝寒や夜行汽車着く海の駅

朝寒の水の音聴く寝覚かな

朝寒や木の間満ち来し日の光

朝寒や歯磨匂ふ妻の口

肌寒の提灯赤き躍かな

肌寒やまなこそらして相対ふ

肌寒やぷつつり切れし三の糸

肌寒やあかあかとして朝湯の灯

肌寒や同じ左の手のほくろ

うそ寒や月しろに浮く如意ヶ嶽

死を図りて遂げぬ友ありうそ寒き

塵取をこぼるる塵や秋の暮

芥火に風定めなし秋の暮

白川の秋の暮なる瀬音かな

たはぶれに妻を背負ひぬ秋の暮

秋の暮おのが家居を一めぐり

廃砲にうち跨りぬ秋の暮