日野草城
朝寒や白粥うまき病みあがり
朝寒やそぞろに日射す苔の庭
朝寒やきりりとかけし緊襷
朝寒や夜行汽車着く海の駅
朝寒の水の音聴く寝覚かな
朝寒や木の間満ち来し日の光
朝寒や歯磨匂ふ妻の口
肌寒の提灯赤き躍かな
肌寒やまなこそらして相対ふ
肌寒やぷつつり切れし三の糸
肌寒やあかあかとして朝湯の灯
肌寒や同じ左の手のほくろ
うそ寒や月しろに浮く如意ヶ嶽
死を図りて遂げぬ友ありうそ寒き
塵取をこぼるる塵や秋の暮
芥火に風定めなし秋の暮
白川の秋の暮なる瀬音かな
たはぶれに妻を背負ひぬ秋の暮
秋の暮おのが家居を一めぐり
廃砲にうち跨りぬ秋の暮