和歌と俳句

杉田久女

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木立ふかく椿落ちゐし落葉かな

バイブルをよむ寂しさよ花の雨

花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ

今掃きし土に苞ぬぐ木の芽かな

晴天に苞押しひらく木の芽かな

花ふかく躑躅見る歩を移しけり

青麦に降れよと思ふ地のかはき

月おそき畦おくられぬ花大根

活くるひま無き小繍毬や水瓶に

春蘭にくちづけ去りぬ人居ぬま

手より手にめで見る人形宵節句

ほほ笑めば簪のびらやの客

幕垂れて玉座くらさや雨の

函を出てより添ふ雛の御契り

古雛や花のみ衣の青丹美し

雛愛しわが黒髪をきりて植ゑ

古りつつも雛の眉引匂やかに

紙雛のおみな倒れておはしけり

雛市に見とれて母におくれがち

雛買うて疲れし母娘食堂へ

嚶珞揺れて雛顔暗し蔵座敷

雛の間や色紙張りまぜ広襖

や螺鈿古りたる小衝立

舳先細くそりて湖舟や春の雪

縁起図絵よむ一行にさかり

春雪に四五寸青し木賊の芽

すすぐ一枚岩のありにけり

梅林のそぞろ歩きや筧鳴る

春潮に群れ飛ぶ鴎縦横に

春雷や俄に変る洋の色

逆潮をのりきる船や瀬戸の

春寒に銀屏ひきよせ語りけり

春浅く火酒したたらす紅茶かな

梨畠の朧をくねる径かな

くぐり見る松が根高し春の雪

ぬかづいてねぎごと長し花の雨

ぬかづきし我に春光尽天地

春光に躍り出し芽の一列に

春惜む布団の上の寝起かな

佇めば春の潮鳴る舳先かな

春潮に流るる藻あり矢の如く

春の山暮れて温泉の灯またたけり

春の襟染めて着初めしこの袷

灌沐の浄法身を拝しける