和歌と俳句

杉田久女

1 2 3 4 5

水ぬるむ巻葉の紐の長かりし

水底に映れる影もぬるむなり

菱摘みし水江やいづこ嫁菜摘む

万葉の池今狭し桜影

摘み競ふ企玖の嫁菜は籠にみてり

添ひ下る塢舸の運河はぬるみけり

子のたちしあとの淋しさ土筆摘む

娘がゐねば夕餉もひとり花の雨

うらゝかや朱のきざはしみくじ鳩

三宮を賽しおはんぬ桜人

咲く宇佐の呉橋うち渡り

うらゝかや斎き祀れる瓊の帯

藤挿頭す宇佐の女禰宜は今在さず

丹の欄にさへづる鳥も惜春

雉子鳴くや宇佐の盤境禰宜ひとり

春惜しむ納蘇利の面は青丹さび

まだ散らぬ帝都の花を見に来り

訪れて暮春の縁にあるこゝろ

虚子留守の鎌倉にきて春惜む

身の上の相似て親し桜貝

種浸す大盥にも花散らす

椿落ちず神代に還る心なし

斐伊川のつゝみの蘆芽雪残る

斐伊川のつゝみの蘆芽萌え初めし

蘆芽ぐむ古江の橋をわたりけり

蘆の芽に上げ潮ぬるみ満ち来なり

上げ潮におさるゝ雑魚蘆の角

若蘆にうたかた堰を逆ながれ

目の下に霞み初めたる湖上かな

立春の輝く潮に船行けり

春潮の上に大山雲をかつぎ

若布刈干す美保関へと船つけり

群岩に上るしぶきも春めけり

潮碧しわかめ刈る舟木の葉の如し

群岩に春潮しぶき鰐いかる

虚偽の兎神も援けず東風つよし

春潮の渚に神の国譲り

椿咲く絶壁の底潮碧く

春潮に真砂ま白し神ぞ逢ふ

春潮からし虚偽のむくいに泣く兎

兎かなし蒲の穂絮の甲斐もなく

春潮に神も怒れり虚偽兎

春寒し見離されたる雪兎

ゆるゆると登れば成就椿坂

春寒み八雲旧居は見ずしまひ

燈台のまたたき滋し壷焼屋