和歌と俳句

新古今和歌集

釈教

なほ頼めしめぢが原のさしもぐさわれ世の中にあらむかぎりは

何かおもふ何かはなげく世の中はただ朝顔の花の上の露

深く年経るわれもあるものをいづちか月のいでて行くらむ

行基菩薩
葦そよぐ鹽瀬の浪のいつまでかうき世の中にうかび渡らむ

傳教大師
あのくたらさみやさほたの佛たちわがたつ杣に冥加あらせたまへ

智證大師
法の舟さして行く身ぞもろもろの神も佛もわれをみそなへ

智證大師
しるべある時にだに行け極楽の道にまどへ世の中の人

日蔵上人
寂莫の苔の岩戸のしづけきに涙の雨の降らぬ日ぞなき

法圓上人
なむあみだ佛の御手にかくる糸のをはり乱れぬ心ともがな

僧都源信
われだにもまづ極楽に生れなば知るも知らぬも皆むかへてむ

上東門院
にごりなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな

法性寺入道前摂政太政大臣道長
わたつ海の底より来つる程もなくこの身ながらに身をぞ極むる

大納言齊信
數ならぬ命はなにか惜しからむ法とくほどをしのぶばかりぞ

京極関白家肥後
むらさきの雲の林を見渡せば法にあふちの花咲きにけり

京極関白家肥後
谷川のながれし清く澄みぬれば隈なき月の影もうかびぬ

前大僧正慈円
願はくはしばし闇路にやすらひて掲げやせまし法のともし火

前大僧正慈円
説く御法きくの白露夜は置きてつとめて消えむ事をしぞ思ふ

前大僧正慈円
極楽へまだわが心ゆきつかず羊の歩みしばしとどまれ

權僧正公胤
わか心なほ晴れやらぬ秋霧にほのかに見ゆるありあけの月

摂政太政大臣良経
奥山にひとりうき世は悟りにき常なき色を風にながめて