苔むしろ岩根の枕なれゆきて心あらそふ山水のこゑ
つもりゐる木の葉のまがふ方もなく鳥だにふまぬ宿の庭かな
しづかなる草の庵の雨の夜を とふ人あらばあはれとや見む
住みなれん我が世はとこそ思ひしか伏見の暮の松かぜの庵
盃に春の涙を注ぎけるむかしににたる旅のまとゐに
傳へ聞袖さへぬれぬ浪の上夜深くすみし四の緒の聲
山深くやがて閉ぢにし松の戸にただ有明の月やもりけん
日に千たび心は谷に投げ果ててあるにもあらず過ぐる我が身は
恨むとも歎くとも世のおぼえぬに涙なれたる袖の上かな
わかれにし昔をかへるたびごとにかへらぬ浪ぞ袖にくだくる
今日までもさすがにいかで過ぎぬらんあらましかばと人をいひつつ
見しことも見ぬ行末もかりそめの枕に浮ぶまぼろしの中
浮雲を風にまかする大空の行ゑも知らぬ果ぞ悲しき
始なき夢を夢とも知らずして此終にや覚はてぬべき
君が代のみかげに生ふる山菅のやまずぞ思ふ久しかれとは