和歌と俳句

桜餅

とりわくるときの香もこそ櫻餅 万太郎

さくらもち供へたる手を合せけり 万太郎

灰皿に茶托に桜餅の皮 立子

櫻餅二月の冷えにかなひけり 万太郎

川波のあくなき曇り櫻餅 万太郎

船つけて買ひにあがるや櫻餅 万太郎

村医なほ毛ごろも脱がずさくら餅 爽雨

葉をたたむしぐさも櫻餅の宵 爽雨

膝先におく葉ちらす葉さくら餅 爽雨

散らばりし筆紙の中の桜餅 たかし

葉のぬれてゐるいとしさや櫻餅 万太郎

葉にめづるうすくれなひや櫻もち 万太郎

桜餅民芸茶器に秀でけり 秋櫻子

櫻餅松葉屋とどけ来りけり 万太郎

そのころをかたりて飽きず櫻もち 万太郎

櫻餅うき世にみれんあればかな 万太郎

垣の上に沖つ白浪さくら餅 風生

くもり日のひかり指に落つ櫻餅 万太郎

にしき絵の古き匂やさくらもち 万太郎

簷ぬらす雨の糸あり櫻餅 秋櫻子

さくら餅帰心そのまま甘かりし 汀女

もたらして夜をよく匂ひさくら餅 爽雨

見舞びと妻も帰りぬ櫻餅 波郷

うかれたる心も少し桜餅 立子

旅の夜の茶のたのしさや櫻餅 秋櫻子

旅家居さくら餅の夜つづくなり 爽雨

百歳の母持つひととさくら餅 林火