和歌と俳句

新古今和歌集

恋三

馬内侍
逢ふことはこれやかぎりのたびならむ草のまくらも霜枯れにけり

女御徽子女王
馴れゆくはうき世なればや須磨の蜑の鹽焼衣まどほなるらむ

坂上是則
霧深き秋の野中のわすれ水たえまがちなる頃にもあるかな

安法法師女
世の常の秋風ならば荻の葉のそよとばかりの音はしてまし

中納言家持
あしひきの山のかげ草結び置きて恋ひや渡らむ逢ふよしをなみ

醍醐天皇御歌
東路に刈るてふ萱のみだれつつ束の間もなく恋ひや渡らむ

權中納言敦忠
結び置きし袂だに見ぬ花薄かるともかれじ君しとはずは

源重之
霜の上に今朝ふる雪の寒ければ重ねて人をつらしとぞ思ふ

安法法師女
ひとり臥す荒れたる宿のとこの上にあはれ幾夜の寝覚しつらむ

源重之
山城の淀のわか菰かりに来て袖濡れぬとはかこたざらなむ

紀貫之
かけて思ふ人もなけれど夕されば面影絶えぬ玉かづらかな

平定文
いつはりをただすのもりのゆふだすきかけつつ誓へわれを思はば

鳥羽院御歌
いかばかり嬉しからまし諸共に恋ひらるる身も苦しかりせば

入道前関白太政大臣基房
わればかりつらきを忍ぶ人やあると今世にあらば思ひあはせよ

前大僧正慈圓
ただ頼めたとへば人のいつはりを重ねてこそはまたも恨みめ

左衛門督家通
つらしとは思ふものからふし柴のしばしもこりぬ心なりけり

よみ人しらず
たのめこし言の葉ばかり留め置きて浅茅が露と消えなましかば

返し 久我内大臣雅通
あはれにも誰かは露を思はまし消え残るべきわが身ならねば

小侍従
つらきをも恨みぬわれに習ふなようき身を知らぬ人もこそあれ

殷富門院大輔
何か厭ふよも長らへじさのみやは憂きに堪へたる命なるべき

刑部卿頼輔
恋ひ死なむ命は猶も惜しきかな同じ世にあるかひはなけれど

西行法師
あはれとて人の心のなさけあれな數ならにはよらぬなげきを

西行法師
身を知れば人の咎とも思はぬにうらみ顔にも濡るる袖かな

皇太后宮大夫俊成
よしさらば後の世とだにたのめ置け辛さに堪へぬ身ともこそなれ

返し 藤原定家朝臣母
頼め置かむたださばかりを契にてうき世の中の夢になしてよ