和歌と俳句

藤原敦忠

よそにのみ おもひやりせば さくら花 しづくに袖は 濡れずぞあらまし

さくら花 しづくに濡るる 袖よりも よそにこがるる むねぞまされる

大空に みつとのみきく 恋なれば きのふけふとて 行きどころなし

今ならば 頼みもせまし むかしより 空にはみてる 恋とこそきけ

秋の野に 咲けりとのみや をみなへし こぞもことしも 見つつ過ぐさむ

をみなへし そほちぬのへの あらばこそ 秋いたづらに 君も過ぐさめ

頼みつつ としつき草に 経にければ うつし心に うたがはれける

君をおきて 我は誰にか つきくさの うつし心の 色もかはらむ

竹の葉の 袂をみつつ 今ぞ知る 憂き世はかくぞ みじかかりける

露もおかぬ 袂し今ぞ 思ひぬる なずらふ竹の 色を見つれば

ことしをば たかき山とも なしてしか 越えぬこなたの 人をたのまむ

春たちし ひよりこかたの うぐひすと われやかつとぞ かなしかりける

うぐひすは なきたちぬとぞ 思ひぬる 君よりさきに 声のせしかば

忘れじと 結びし野辺の はなすすき ほのかにもみて 枯れぞしぬべき

新古今集・恋
結びおきし 袂だに見ぬ はなすすき かるとも枯れじ 君が解かずば

いけころし 身をまかせつつ 契りこし むかしを人は いかが忘るる

契りこし こと忘れたる ものならば とふにつけても 忘れざらまし

後撰集・恋
伊勢の海の ちひろの濱に 拾ふとも 今は何てふ かひかあるべき

伊勢の海に ふねをながして 潮たるる あまをわがみと なりぬべきかな

伊勢の海の あまのあまたに なりぬらむ われもおとらず 潮をたるれば