和歌と俳句

藤原敦忠

白露の 急ぎ置きつる 朝顔を 見づとも夢よ 人にかたるな

朝顔を 朝ごとに見る ものならば 君よりほかに 誰にかはいはむ

朝な朝な 置きつむ霜の あさからで 心とけたる いもねてしがな

ふたばより 頼みしものを をみなへし 人の垣根に 生ひにけるかな

人知れず おもふ心は 年経ても 何のかひなく なりぬべきかな

うきことの しげさまされる 夏山の 下ゆく水の 音もかよはず

世の中に また白雲の 山の端に かかるやつらき 心なるらむ

わかひとつ たぐふる風を 八十島の 松の嵐に あふぎくらべよ

後撰集・恋
けふそへに 暮れざらめやはと 思へども 絶えぬは人の 心なりけり

むつごとも またいひ出でて 別れにし 人のかたみは あづまなりけり

下にのみ 流れわたるは 冬川の こほれる水と 我となりけり

心から ひとやりならぬ 水なれば 流れわたらむ こともことわり

影にのみ 残れる雪の 消えはてぬ 先にも人に 逢ひ見てしがな

光みぬ かげにならへる 雪なれば あひ見むからに 消えてまさらむ

ものを思ふ 心は糸に あらねども まづ乱るるは こひにぞありける

嘆きくる 程の経ぬれば 青柳の 糸しも乱れ まさる恋かな

青柳の 糸またきから 乱るなる 心はたゆる ふしもこそあれ

逢ふことを 今や今やと 住之江の まつに齢は おいぞしにける

住之江の まつとも見えず 忘られて おふとて岸に 立てりと思へば

わが恋は いまは木の芽の 春なれや 雨ふるごとに 萌えまさるらむ

人よりも 花もさすがに 見ゆれども 恋ひしきことは 思ひ忘れず