和歌と俳句

式子内親王

最初のページ 前のページ< >次のページ

櫻色の衣にもまた別るるに春を残せる宿の藤浪

待つ里をわきてやもらす時鳥卯花蔭の忍び音の聲

時鳥鳴つる雲をかたみにてやがてながむる有明の空

新古今集・夏聲はして雲路にむせぶ時鳥涙やそそぐ宵のむら雨

時鳥横雲かすむ山の端の有明の月になをぞかたらふ

水暗き岩間にまよふ夏蟲の照射けちても夜を明すかな

五月雨の雲は一つに閉ぢ果ててぬき乱れたる軒の玉水

古を花橘にまかすれば軒の忍ぶに風かよふなり

新古今集・夏かへりこぬ昔を今と思ひねの夢の枕に匂ふたち花

真葛原浦風なるる夏の夜は秋立ちそむる蝉の羽衣

涼しやと風の便を尋ぬればしげみになびく野辺のさゆり葉

小夜ふかみ岩もる水のをと冴へて涼しくなりぬうたたねの床

池寒き蓮の浮葉に露はゐぬ野辺に色なる玉や敷くらん

月の色も秋近しとや小夜更て籬の荻の驚かすらん

秋風と雁にやつぐる夕暮の雲近きまで行かな