櫻色の衣にもまた別るるに春を残せる宿の藤浪
待つ里をわきてやもらす時鳥卯花蔭の忍び音の聲
時鳥鳴つる雲をかたみにてやがてながむる有明の空
新古今集・夏聲はして雲路にむせぶ時鳥涙やそそぐ宵のむら雨
時鳥横雲かすむ山の端の有明の月になをぞかたらふ
水暗き岩間にまよふ夏蟲の照射けちても夜を明すかな
五月雨の雲は一つに閉ぢ果ててぬき乱れたる軒の玉水
古を花橘にまかすれば軒の忍ぶに風かよふなり
真葛原浦風なるる夏の夜は秋立ちそむる蝉の羽衣
涼しやと風の便を尋ぬればしげみになびく野辺のさゆり葉
小夜ふかみ岩もる水のをと冴へて涼しくなりぬうたたねの床
池寒き蓮の浮葉に露はゐぬ野辺に色なる玉や敷くらん
月の色も秋近しとや小夜更て籬の荻の驚かすらん
秋風と雁にやつぐる夕暮の雲近きまで行蛍かな