流れても 契りし妹を 堰く人や あふくま川に かくるしがらみ
よとともに 落つる涙や 恋ひしてふ わがこと草の 露となるらむ
袖の上に 落つる涙の 色見てぞ こひは限りと 思ひ知りぬる
命あらば もし逢ふことも ありやとて わかなくさむる 我が心かな
とどこほる 春よりさきの 山水を 絶え果てぬとや 人も知るらむ
とどこほる 音かとききし 山川の 絶え果てぬとは 春ぞ知らるる
思へただ 岩にわかるる 山水も また程もなく あらぬものかは
我のみか まつのねたけに 言の葉を たちきくなみの うらみやはせぬ
いとはるる わがみぎはには はなれ石の かくるなみだに ゆるきけぞ無き
つれもなき 人こそよそに きくならめ こふる袖さへ うつろひにけり
思ひかね もしもや見ると たはれめが すむかはかみに 流すたまづさ
からさじと 植ゑける竹か 妹と我が ふしをならべて ゆるきけのなき
わぎもこは さかよふ山の せはち川 あはじと人に かねて聞かする
君待つと たてる木蔭の 雫さへ 涙につれて 落つと知らなむ
落ちかかる 涙やしげき 恋路ゆく 駒のたつかみ 露ふしにけり
さればよな かくてもおなじ 苦しさを いはぬさきより 思ひかへさで
言の葉を きかずかほなる 涙かな 思ひ絶えなば なれもたえなで
妹こふと またはしちかき うたたねの 枕のそばに やどる月影
奈呉の海 しほ干ひしほ満つ 磯の石と なれるか君が 見え隠れする
みごもりの 神にや妹が 祈るらむ こふときくより 我もかなしき