和歌と俳句

渡邊水巴

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法堂や二月厳しき松の幹

春寒く咳入る人形遣かな

雪解風牧場の国旗吹かれけり

曙は王朝の世の蛙かな

椿落つる時音やある人知らず

手をうたばくづれん花や夜の門

花過ぎてゆふべ人恋ふ新茶かな

三日月にたたむ日除のほてりかな

親と行くたそがれ貌の鹿の子かな

塔のなかに秘密なかりし若葉かな

伽藍閉ぢて夜気になりゆく若葉かな

卯の花や戸さされぬまの夜気に寝ん

日輪を送りて月の牡丹かな

牡丹二本浸して満つる桶の水

樹に倚れば落葉せんばかり夜寒かな

仲見世を出て行く手なし秋の暮

山国の夜霧に劇場出て眠し

家づとに蕎麦粉忘れじ秋の雨

秋風に机の上の小人形

家移らばいつ来る町や柳散る

葉を出でて雪一塊の芙蓉かな

大崩れの崖裾ひろしむら紅葉

木枯やすかと芭蕉は切りすてん

陶窯を取り出す皿や雪晴るる

影落して木精あそべる冬日かな