和歌と俳句

藤原顕輔

よろづ代に 見るべき花の 色なれど 今日の匂ひは いつかわすれむ

けふ咲きて あすは青葉に なる花を 見捨ててかへる 人もありけり

惜しむとて 幾日もあらじ 山桜 心のままに をりてかへらむ

散る花を 惜しむばかりや 世の中の 人の心の かはらざるらむ

むらさきの 色のゆかりに 藤の花 かかれる松も むつまじきかな

かぎりあれば なかでもやまじ ほととぎす 人くるしめに 待たれざらなむ

金葉集・夏
郭公 こころも空に あくがれて 夜がれがちなる み山邊の里

白露や 心をくらむ をみなへし 色めく野辺に 人かよふとて

金葉集・恋
年ふれど 人もすさめぬ わが恋や 朽ち木の杣の 谷のむもれ木

千載集・恋
今はさは 逢ひみむまでは かたくとも 命とならん 言の葉もがな

金葉集・恋
恋ひわびて 寝ぬ夜つもれば 敷妙の 枕さへこそ うとくなりけれ

金葉集・恋
逢ふと見て現のかひはなけれどもはかなき夢ぞ命なりける

いはねども したはいとなし 鴛鴦の うきたる恋と 思はざらなむ

思ひやれ めぐり逢ふべき 春だにも たち別るるは かなしきものを

家の風 吹かぬものゆゑ はづかしの 森の言の葉 散らしはてつる

金葉集・雑歌
家の風 吹かぬものゆゑ はづかしの 森の木の葉を 散らしつるかな

いかでかは 森の言の葉 しのぶべき こたかきやどの 風のしげきに

風ふけば さこそはたゆれ たゆれども またかきつけつ ささがにの糸

過ぎつらむ みやこのことも とふべきに 雲のよそにも わたる月かな

みをつみて 照らしをさめよ ます鏡 誰がいつはりも 曇りあらすな

新古今集・哀傷
いつのまに 身を山がつに なしはてて 都を旅と 思ふなるらむ