和歌と俳句

続後撰和歌集

円融院に一本菊奉るとて 尚侍藤原灌子朝臣
しぐれつつ 時ふりにける 花なれど くもゐにうつる 色はかはらず

御返し 円融院御製
いにしへを こふる涙の 時雨にも 尚ふりがたき 花とこそみれ

後一条院御時 権大納言長家
色さむみ 枝にも葉にも ふりて ありあけの月を てらす白菊

建保六年内裏歌合 冬山霜 前中納言定家
冬の日も よそにくれゆく 山かげに 朝霜けたぬ 松のした柴

大納言通具
野辺におく 露のなごりも 霜がれぬ あだなる秋の 忘れがたみに

藤原経平朝臣
あさぢふの 下葉も今は うらがれて 夜な夜ないたく さゆるかな

真昭法師
消ぬがうへに かさねてや おく山の 夕日がくれの 谷の下草

左近中将公衡
霜こほる 門田のおもに たつ鴫の 羽音もさむき 朝ぼらけかな

惟明親王
風をいたみ かりたの鴫の ふしわびて 霜に数かく あけがたの空

前内大臣家良
はらひかね うきねにたへぬ 水鳥の はがひの山も 霜やおくらむ

建保六年歌合 冬閏月 順徳院御製
風さゆる 夜はの衣の 関守は ねられぬままの 月やみるらむ

千五百番歌合に 前大納言忠良
淡路島 なみもてゆへる 山の端に こほりて月の さえわたるかな

百首歌 めされしついでに 豊明節会 太上天皇(後嵯峨院)
あまをとめ 玉藻すそひく 雲の上の とよのあかりは おもかげにみゆ

権大納言実雄
月さゆる 豊のあかりの 雲の上に をとめの袖も 光そへつつ

冬月 藤原経朝朝臣
ひさきおふる きよき河原の 霜の上に かさねてさゆる 冬の夜の月

元久二年冬 藤原清範
空さゆる かつらの里の 河上に ちぎりありてや 月もすむらむ

醍醐入道太政大臣
小夜千鳥 浦つたひゆく 浪の上に かたぶく月も 遠ざかりつつ

前中納言定家
浦風や とはに浪こす 浜松の ねにあらはれて 鳴く千鳥かな

長覚法師
おきつ浪 よせくるいその むら千鳥 心ならずや 浦つたふらむ

行念法師
ゆふは河 いはもとすげの ねにたてて 長き夜あかす 鳴く千鳥かな