和歌と俳句

続後撰和歌集

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前内大臣家良
いかにせむ 涙の袖に 海はあれど おなじなぎさに よる舟なし

正三位成実
おもひわび 身をつくしてや おなじ江に またたちかへり こひわたりなむ

洞院摂政左大臣教実
みるめなき しがつのあまの いさり舟 君をばよそに こがれてぞふる

土御門院御製
あはでふる 涙のすゑや まさるらむ 妹背の山の 中の滝つ瀬

京極関白家肥後
あふせなき 涙の河の 底みれば 恋にしづめる かげぞかなしき

荒木田延成
せきかぬる 涙の川の うき枕 うきてみなわの よるぞ消ぬべき

藤原永光
せきかへす なみだは淵と なりはてて あふせも見えぬ 袖のしがらみ

源家清
しらせばや ものおもふ袖の 中におつる 涙の河の たぎつ心を

洞院摂政家百首歌に 従三位行能
岩そそぐ みかげにしげる すがのねの ながくや袖を くたしはててむ

権中納言長方
信濃路や 木曽の御坂の をざさはら わけゆく袖も かくや露けき

待賢門院堀河
おもひやる 心つくしの はるけさに いきの松こそ かひなかりけれ

東三条入道摂政太政大臣
何かその かよはむ道の かたからむ ふみはしめたる 跡をたのめば

千五百番歌合に 後京極摂政前太政大臣良経
よそながら かけてぞ思ふ たまかづら 葛城山の 峰の白雲

正治百首歌奉りける時 前中納言定家
ひさかたの あまてる神の ゆふかづら かけていくよを こひわたるらむ

忠峯
わび人の 心のうちを くらぶるに 富士の山とや 下こがれける

京極前関白太政大臣
年をふる 思ひなりけり 駿河なる 富士の高嶺に たえぬ煙は

鷹司院按察使
いかにせむ 富士の煙の 年ふれど わするる程に ならぬ思ひを

少将内侍
煙たつ 空にもしるや ふじのねの もえつつとはに 思ひありとは

前大納言基良
わればかり おもひこがれぬ かはらやの けぶりもなほぞ したむせぶなる

前参議忠定
こひしなば 室の八島に あらずとも おもひの程は 煙にもみよ

前大僧正慈鎮
身にかへて 思ひけりとは しらるとも さてこひしなば かひやなからむ

前内大臣基家
しりがたき 命の程も かへりみず いつまでと待つ ゆふべなるらむ

前大納言伊平
岩におふる ためしを何に たのみけむ つひにつれなき 松の色かな

左衛門督道成
よそにのみ みつの浜松 年をへて つれなき色に かかる浪かな

入道二品親王道助
君がすむ あたりの草に やどしても みせばや袖に あまる白露

前大納言為家
あふまでの 恋ぞ命に なりにける 年月ながき ものおもへとて

源家清
あしひきの 山鳥の尾の ながらへて あらばあふよを なくなくぞまつ

石川郎女
われまつと 君がぬれけむ あしひきの 山のしづくに ならましものを

よみ人しらず
よのなかの うきもつらきも かなしきも 誰にいへとか 人のつれなき

よみ人しらず
おもへども 消えぬうき身を いかにして あたりの風に ありとしらせむ

平兼盛
こひそめし 心をのみぞ 恨みつる 人のつらさを われになしつつ

貫之
あはれてふ ことををにして ぬく玉は あはでしのぶる 涙なりけり