和歌と俳句

藤原定家

神祇

後京極摂政殿 伊勢勅使時 外宮にまいりて
契りありてけふ宮川のゆふかづら ながき世までもかけてたのまむ(新古今集

昔八幡の歌合とて人のよませ侍りし
たのむかな雲ゐに星をいただきて わがすみかてふもとの誓ひを

住吉ならびに依羅社に求子の歌よみたたてまつるべきよし祠官申ししかば たてまつりし
住吉の松が根あらふしきなみに いのるみかげは千代もかはらじ(続後撰集

君が代はよさみの杜のとことはに 松と杉とや千たびさかえん

承元二年秋 少将具親 三社にて歌講ずべきよし申しし中に 住吉
つれもなくなほ住の江に手向ぐさ 引きすてらるる道の朽葉を

かきつめし松の下波いろわかぬ藻屑なりけり身さへ朽ちぬる」

広田
あはれびを広田の浜に祈りても 今はかひなき身の思ひかな

あまのすむ里のしるべのいくとせに われからたへてみるめなりけり

ことわりと思ひしことを北野に祈り申すとて
ちはやぶる神の北野に跡たれて のちさへかかるものや思はん(続後撰集

日吉社にこもりて思ひつづける事のなかに
見し夢のすゑたのもしく合ふことに 心よわらぬものもひかな

憂しと世をみとせはすぎのうれへつつ かくてあらしに身やまじりなん

かぞへやるほどや歎きを祈りけん 神にまかせてねをぞ泣きつる

捨てはつな契りあればぞたのみけむ 神のなかにも人のなかにも

承久元年九月 日吉歌合とて内よりおもせごとにて 六首の中
たのみこししるしもみつの川淀に 今さへ松の風ぞひさしき

鳰の海の朝な夕なにながめして よるべなぎさの名にや朽ちなん

御熊野詣の御共に参りて 歌つかうまつりし中に 本宮
ちはやぶる熊野の宮のなぎの葉を かはらぬ千代のためしにぞ折る

小夜千鳥やちよと神やをしふらん きよき川原に君いのるなり

深山木のかげよりほかにくまもなし 嵐に捨てしかりいほの月

新宮
わたつ海もひとつに見ゆる天の戸の あくるもわかず澄める月影

霜おかぬ南の海の浜びさし ひさしくのこる秋の白菊

明けぬるか竹の葉風のふしながら まづこの君の千代ぞきこゆる

那智
風の音もただ世の常に吹かばこそ 深山いでての形見にもせめ

やはらぐる光そふらし 滝の糸のよるとも見えずやどる月かげ

寺ふかき紅葉の色に跡絶えて 唐くれなゐをはらふ木枯し

本宮にてまた講ぜられ侍りし
苔むしろみどりにかふる唐錦 ひと葉のこさぬをちの木枯し

もろ人の心の底もにごらじな 夕べにすめる川波の声

袖の霜にかげうちはらふ深山路も まだ末とほき夕月夜かな

冬も今朝ことしのをいそぎけり 夜をこめてたつ峰の明けくれ

深山路はもみぢもふかき心あれや 嵐のよそにみゆき待ちける

くもりなき浜のまさごに君が代のかずさへ見ゆる冬の月かげ

染めし秋を暮れぬとたれかいはた川 まだ波こゆる山姫の袖

岩浪のひびきはいそぐ旅のいほを しづかに過ぐる冬の月影

冬の日をあられふりはへ朝たてば 浪に浪こす佐野の松風

神垣やけふの空さへゆふかけて 三室の山の榊葉の声