和歌と俳句

源 実朝

淡路島 かよふ千鳥の しばしばも はねかくまなく こひやわたらむ

豊国の 企救の長濱 夢にだに まだ見ぬ人に 恋やわたらむ

須磨の浦に あまのともせる いさり火の ほのかに人を 見るよしもかな

芦の屋の 灘のしほやき われなれや 夜はすがらに くゆりわぶらむ

続後撰集・恋
かくれ沼の 下はふ蘆の みこもりに われぞものおもふ ゆくへしらねば

真菰おふる 淀のさはみづ みさびゐて かげしみえねば とふ人もなし

三島江や たまえのまこも みかくれて めにしみえねは かる人もなし

ほととぎす なくや皐月の 五月雨の はれずものおもふ ころにもあるかな

ほととぎす まつよながらの 五月雨に しげきあやめの ねにぞなくなる

ほととぎす なくや皐月の 卯の花の うき言の葉の しげきころかな

さつき山 木の下闇の 暗ければ おのれまどひて なくほととぎす

奥山の たつきも知らぬ 君により わがこころから まどふべらなり

おくやまの 苔ふみならす さをしかも ふかきこころの ほどは知らなむ

天の原 風にうきたる 浮雲の ゆくへさだめぬ 恋もするかな

白雲の 消えはきえなで なにしかも たつたのやまの 名のみたつらむ

続後撰集・恋
わすらるる 身はうらぶれぬ 唐衣 さてもたちにし 名こそをしけれ

きみに恋ひ うらぶれをれば 秋風に なびく浅茅の 露ぞ消ぬべき

ものおもはぬ 野辺の草木の 葉にだにも 秋のゆふへは 露ぞをきける

秋の野の 花のちぐさに ものぞ思ふ 露よりしげき 色はみえねど

わが袖の 涙にもあらぬ 露にだに 萩の下葉は 色にいでけり

山城の いはたのもりの いはずとも 秋のこずゑは しるくやあるらむ