塩釜の浦の松風かすむなり八十島かけて春やたつらむ
いかにして野中の松のふりぬらん昔の人は引かずやありけむ
新勅撰集・雑歌
春きては花とか見らむ自ずから朽木のそまにふれる白雪
深草の谷のうくひす春ごとにあはれむかしとねをのみぞなく
草深きかすみの谷にはぐくもるうぐひすのみやむかしこふらし
住吉の松の木隠れゆく月の朧にかすむ春の夜の空
たちよれば衣手涼しみたらしやかげみる岸の春の川浪
難波潟こぎいづるふねのめもはるにかすみにきえて帰る雁がね
名にしおはばいざたづねみん逢坂の関路に匂ふ花はありやと
たづね見るかひはまとに逢坂の山路に匂ふ花にぞありける
逢坂のあらしの風に散る花をしばしとどむる関守ぞなき
逢坂の関のせきやの板廂まばらなれはや花のもるらん
いにしへの朽木のさくら春ごとにあはれむかしと思ふかひなし
うつせみの世は夢なれやさくら花さきては散りぬあはれいつまて
見てのみぞおどろかれぬるぬばたまの夢かと思し春の残れる
ゆかしくはゆきても見ませゆきしまのいはほにおふる撫子の花
わが宿のませのはたてにはふうりのなりもならずもふたりねまほし
わがくにの山としまねの神たちをけふのみそぎに手向けつるかな
あだ人のあだにある身のあだごとをけふみな月のはらへすてつといふ