ことしげき世をのがれにし山里にいかにたづねて秋のきつらん
ひとりゆく袖よりをくか奥山の苔のとぼその道の夕露
たのめこし人だにとはぬふるさとにたれまつむしの夜半になくらむ
うづらなくふりにし里の浅茅生にいくよの秋の露かをきけむ
ちぎりけむこれやむかしの宿ならん浅茅が原にうづら鳴くなり
新勅撰集・雑歌
浅茅原ぬしなき宿の庭の面にあはれいくよの月かすみけむ
新勅撰集・雑歌
思いでて昔をしのぶ袖の上にありしにもあらぬ月ぞやどれる
ゆきめぐり又もきて見むふるさとの宿もる月はわれをわするな
大原やおぼろの清水さと遠み人こそくまね月はすみけり
わくらばにゆきても見しかさめかゐのふるき清水にやどる月かげ
哀れなりくもゐのよそにゆく雁もかかるすがたになりぬとおもへは
住之江の岸の松ふく秋風をたのめてなみの夜をまちける
玉津島わかの松原ゆめにだにまた見ぬ月に千鳥なくなり
春といひ夏とすぐして秋風の吹上の浜に冬は来にけり
いつもかく寂しきものか芦の屋に焚きすさびたるあまの藻塩火
水鳥の鴨の浮寝のうきながら玉藻の床にいくよへぬらん
高砂の尾上の松にふる雪のふりていくよの年かつもれる
雪つもる和歌の松原ふりにけりいくよへぬらむ玉津島もり
月のすむ磯の松風さえさえて白くぞ見ゆる雪のしらはま