和歌と俳句

源 実朝

われゆへに濡るるにはあらじ唐衣やまぢの苔の露にぞありけむ

結ひそめてなれし手房の濃紫おもはずいまもあさかりきとは

くれなゐの血汐のまふり山のはに日のいる時の空にぞありける

浜辺なる前の河瀬をゆく水のはやくもけふの暮れにけるかな

夕月夜さすや河瀬のみなれ竿なれてもうとき波の音かな

旅をゆきしあとの宿もりをのをのにわたくしあれやけさは未だ来ぬ

みちのくにここにやいづく塩釜の浦とはなしに煙たつみゆ

たまくしけ箱根のみうみけゝれあれやふた国かけてなかにたゆたふ

箱根路をわれ越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄るみゆ

空や海海や空ともえそわかぬかすみもなみもたちみちにつつ

おほうみの磯もとどろによする波われてくだけてさけてちるかも

わたつうみの中にむかひていづる湯のいづのをやまとむべもいひけり

伊豆のくに山のみなみにいづる湯のはやきは神のしるしなりけり

走る湯の神とはむべぞいひけらしはやきしるしのあれはなりけり

みづがきのひさしき世よりゆふだすきかけし心は神ぞしるらん

さとみこがみ湯たて笹のそよそよに靡きおきふしよしや世の中

かみつけの瀬田の赤城のから社やまとにいかであとをたれけむ

いくかへりゆききの嶺のそみかくたすずかけ衣きつつなれけん

すずかけの苔おりぎぬのふる衣おてもこのもにきつつなれけむ