和歌と俳句

源 実朝

冬ごもり那智のあらしの寒ければ苔の衣のうすくやあるらむ

炭をやく人の心もあはれなりさてもこのよを過ぐるならひは

ふる雪をいかにあはれとながむらん心はおもふともあしたたずして

としふれは寒き霜夜ぞさえけらしかうべは山の雪ならなくに

我のみぞかなしとは思なみのよるやまのひたいに雪のふれれば

年つもる越の白山しらずともかしらの雪をあはれとは見よ

おいぬれば年の暮れ行く度ごとにわが身ひとつとおもほゆるかな

白髪といひおひぬるけにやことしあれば年のはやくもおもほゆるかな

うち忘れはかなくてのみ過ぐしきぬ哀れとも思へ身につもるとし

あしひきの山よりおくに宿もかな年のくましき隠れ家にせむ

ゆく年のゆくへをとへば世の中の人こそひとつまうくべらなれ

春秋はかはりゆけどもわたつうみの中なる島の松ぞひさしき

磯の松いくひささにかなりぬらんいたくこたかき風の音かな

梓弓いそべにたてるひとつ松あなつれづれげ友なしにして

年ふれは老ぞたうれて朽ちぬべき身は住之江の松ならなくに

住之江の岸の姫松ふりにけりいづれのよにか種はまきけむ

豊國の企救の濱松老いにけり知らずいく世の年かへにけむ

をのづから我をたづぬる人もあらば野中の松よ見きとかたるな

かち人の渡ればゆるく葛飾の真間のつぎ橋くちやしぬらん