和歌と俳句

源頼政

沖つ波 君さき立てて 清き海の 舟出いそがむ 西の門より

みやこへは 我は急がず なはの海の かなたの岸へ 行かまほしさに

彼の岸へ 行かまほしさは 我もあれば みやこの方は 急がれぬかな

ゆきやすく つとめてゐたる 極楽の 門むかひこそ 思ひ出でけれ

思ひ出づや 秋のきりしの のりのこゑ 起ち居につけて 忘れやはする

すみのばる 夜の琴ぢは 松風を 聴くここちして 身にぞしみける

琴のねも きりしかのりも たちききし 我がことをさへ 我ぞ忘れぬ

これを見よ 人もさこそは 妻こふる 春のきぎすの なれるすがたを

我はただ かりの憂き世ぞ あはれなる 春のきぎすの なれるさまにも

君に逢ひて かへりにしより 昔せし 恋にさ似たる ものをこそ思へ

我はいさ 昔も知らず あかざりし 名残はそれに はじめてぞ思ふ

かくしあらば 早ぞ消なまし そのかみの 恋にはさ似ぬ わが思ひかな

などやさは さ似ると聞きし いにしへを 厭ひけるさへ 今は恋ひしき

あかねさす 日の出づるかたに 妹をおきて あはれは山の はをぞながむる

月もれと まばらにふける やの上に あやなく雨や たまらざるらむ

ぬしからぞ 思ひ知らるる 雨のもる ねやの板間の 月のゆゑかも

来む春は くもゐの花を 待ちつけて なれゆゑありし こととかたらむ

なれゆゑと くもゐの花の かこたれば 散りに散りてや 逃げむとすらむ

うつつにも かべにもおなじ 滝を見て 寝ても覚めても 忘られぬかな

夢のよに かべより落つる 滝の糸を 君が心に かけけりやさは