和歌と俳句

源頼政

翁さび はふはふのぼる くらゐ山 雲ふむほどに いかでなるらむ

くらゐ山 高くなりぬと 見しほどに やがてくもゐに のぼるうれしさ

のぼりにし くらゐの山も 雲の上も 年の高さに あらずとぞ思ふ

よそにきく 袖にもあまる うれしさを 包みあへずや 天の羽衣

袂をば たちこそかふれ うれしさを 重ねて包む 袖の狭きに

いかばかり 袂も狭く 思ふらむ くもゐにのぼる 鶴のけごろも

知りけりな くもゐをおりて なくたづの たちのぼるまで おもふ心を

雲の上を おもひたえにし はなちどり 翼おいぬる ここちこそすれ

雲の上に 千代も八千代も あそぶべき 鶴は久しき ものとならなむ

木隠れて 見し夜の月の かはらずは おなしくもゐを あはれとや思ふ

木隠れて その夜の月に なれにしも くもゐを見ては あはれとぞ思ふ

色そへし 袖につつみし うれしさを むらさきにては あまりぬるかな

ことわりや くもゐにのぼる 君なれば 星のくらゐも まさるなりけり

見えにけむ 星のくらゐも 雲の上に のぼりしをりに のぼるべしとは

いかにして 野中の清水 おもひいでて 忘るるばかり またなりぬらむ

浅かりし 野中の清水 忘れねば また夏草を わくと知らなむ

音羽川 せき入るるのみか 水ほすに 人の心は 見えけるものを

音羽川 浅き心は 見えぬるを せき入れし水に よそへざるらむ

今日よりは 君と子の日の 松をこそ おもふためしに 人も引くらめ