春ながら あきのみやまに ゐる人は 紅葉をこひて 花を見じとや
あだに見し 花のつらさに 春ながら あきのみやまを 出でぞわづらふ
彼の岸を 願ふ心や しるからむ うれしく寄する のりの舟かな
今日こそあれ つひは仏と 思ふをば 知らでや我を うらみ顔なる
かりの宮に しばしやすむる しるべあれば つひにまことの 道に来にけり
あさとあけて 待たれやせまし 降る雪に 訪ふべき人の ある身なりせば
あさとあくる 程には行かじ 降る雪の 積もれば暮に 踏み分けてこそ
みをつめば いかがはすらむ ひとり寝て かたしく袖の 冴ゆる霜夜に
いつはりの みをばえつまじ つむならば ひとりはねじと 思ひやらなむ
はかなさを 誰かは君に 語らまし むかしのあとを たづねざりせば
ありなしを かつは形見に きくやとて むかしのあとを たづぬばかりぞ
みなもとは おなじこずゑの 花なれば 匂ふあたりの なつかしきかな
げにや皆 もとはひとつの 花なれは すゑすゑなりと 思ひはなつな
わたつ海を 空にまがへて 漕ぐ舟の 雲の絶え間の せとに入りぬる
思へただ 神にもあらぬ えびすだに 知るなるものを 人のあはれは
つねにわが 願ふ方にし ますと聞く 神を頼むは この世のみかは
とにかくに わが身になるる ものをして 放ちやりつる ことぞかなしき
放なたるる かたみになるる 唐衣 心しあらば なれもかなしや
新勅撰集・雑歌
雲井なる はなもむかしを おもひいでば わするらむ身を わすれしもせじ