和歌と俳句

寂蓮法師

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夜もすがから 絶えずおとする 木の葉かな 山めぐりする しぐれならねど

何となく まづかき曇る 心かな しぐれしぬべき 空のけしきに

新古今集・冬
降り初むる 今朝だに人の 待たれつる み山の里の 雪の夕暮

降るや こずゑに高く つもるらむ 声よわりゆく 峰の松風

ゆきかへり 浦つたひする 小夜千鳥 明石須磨も 風や寒けき

夜を寒み みぎはの氷 一重づつ 重ねてかへる 志賀の浦波

山川の みぎはのいさご とぢあげて 下も通はず こほりしてけり

谷深み 雪にこもれる うぐひすも とくる春をや したに待つらむ

知る知らず みちゆき人の けしきにも あはれは深き 年の暮かな

にしき木を 心の内に 立てそめて 朽ちぬる程は 袖ぞ知りける

さりともと 君待つ宵の 鐘の音は うちたへてこそ ねは流れけれ

おもひねの 夢だに見えず 明けゆけば 逢はでもとりの ねこそ辛けれ

身の程を 思ひ知れとや 厭ふらむ 憂きにつけても 恋ひしきものを

よしされば 辛き人ゆゑ くたしてむ 身をうらみても 濡れぬ袖かな

つれもなき 君がゆかりに あぢきなく わが心さへ われをうらむる

厭ふらむ ことをも何か うらむんべき さても心に かくるとならは

かこつべき やまわけ衣 かひぞなき 露には渡る 袖の色かは

わびぬとも 月夜よしとは 告げやらじ それにも来ずは 君が名も惜し

新古今集・恋
涙川 身も浮きぬべき 寝覚かな はかなき夢の なごりばかりに

身の程は わが身ながらも 知るものを うきこころとは 思はずや君