和歌と俳句

在原業平

古今集・賀
桜花ちりかひくもれ老いらくの来むといふなる道まがふがに

後撰集・恋
伊勢の海に遊ぶあまともなりにしか浪かきわけてみるめかづかむ

後撰集・恋
たのめつつ逢はで年ふるいつはりにこりぬ心を人は知らなむ

伊勢物語・七後撰集・離別羇旅
いとどしく過ぎゆく方のこひしきにうらやましくも帰る浪かな

拾遺集・恋
かからでもありにしものを白雪のひとひもふればまさる我が恋

拾遺集・雑恋
そめ河を わたらん人の いかでかは 色になるてふ 事のなからん

新古今集・哀傷
白玉か何ぞと人の問ひしとき露とこたへて消なましものを

新古今集・恋
みるめ刈るかたやいづくぞ棹さしてわれに教へよ海人の釣舟

新古今集・恋
思ふには忍ぶる事ぞまけにける逢ふにしかへばさもあらばあれ

新古今集・恋
出でていにし跡だにいまだ変らぬに誰が通ひ路と今はなるらむ

新古今集・恋
梅の花香をもに袖にとどめ置きてわが思ふ人はおとづれもせぬ

新古今集・雑歌
葦の屋の灘の鹽やきいとまなみ黄楊のをぐしもささず来にけり

新勅撰集・恋
いへばえに いはねばむねに さわがれて こころひとつに なげくころかな

新勅撰集・恋
そでぬれて あまのかりほす わたつみの みるをあふにて やまむとやする

新勅撰集・恋
われならで したひもとくな あさがほの ゆふかげまたぬ はなにはありとも

新勅撰集・恋
しのぶやま しのびてかよふ みちもがな ひとのこころの おくもみるべく

新勅撰集・雑歌
わがそでは くさのいほりに あらねども くるればつゆの やどりなりける

新勅撰集・雑歌
おもふこと いはでぞただに やみぬべき われとひとしき ひとしなければ

続後撰集・恋
涙にぞ ぬれつつしぼる 世の人の つらき心は 袖の雫か

続後撰集・恋
いかでかは 鳥のなくらむ 人しれず 思ふ心は まだ夜深きに

続後撰集・恋
あひみては 心ひとつを 河島の 水のながれて 絶えじとぞ思ふ

続後撰集・恋
いとひても 誰かわかれの かたからむ ありしにまさる けふはかなしも

続後撰集・恋
おもはずば ありもすらめど 言の葉の をりふしごとに たのまるるかな

続後撰集・恋
忘れ草 ううとだにきく ものならば 思ひけりとは しりもしなまじ

続後撰集・雑歌女御高子かくれ侍て安祥寺にて後のわざし侍けるに 人々のさゝげ物奉れるをみて読侍ける
山のみな うつりてけふに あふことは 春のわかれを とふとなるべし