和歌と俳句

西行

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流れ行く水に玉なすうたかたのあはれあだなるこの世なりけり

消えぬめる本の雫を思ふにも誰かは末の露の身ならぬ

送りおきて帰りし野辺の朝露を袖に移すは涙なりけり

舟岡の裾野の塚の数添へて昔の人に君をなしつる

あらぬ世のわかれはげにぞ憂かりける浅茅が原を見るにつけても

後の世を問へと契りし言の葉や忘らるまじき形見なるべき

後れゐて涙に沈む古郷を玉の陰にもあはれとや見ん

跡を問ふ道にや君は入りぬらん苦しき死出の山へかからで

名残さへほどなく過ぎばかなし世に七日の数を重ねずとも哉

跡偲ぶ人にさへまた別るべきその日をかねて散る涙かな

さくら花ちりぢりになる木の下になごりを惜しむうぐひすの声

あはれ知る空も心のありければ涙に雨を添ふるなりけり

今朝いかに思ひの色のまさるらん昨日にさへもまた別れつつ

露ふかき野辺になりゆく古里は思ひやるにも袖しをれけり

いづくにか眠り眠りて倒れ臥さんと思ふかなしき道芝の露

おどろかんと思ふ心のあらばやは長き眠りの夢も覚べき

風荒き磯にかかれる海士人はつながぬ舟の心地こそすれ

大浪に引かれ出でたる心地して助け舟なき沖に揺らるる

なき跡を誰と知らねど鳥部山おのおのすごき塚の夕暮

波高き世を漕ぎ漕ぎて人は皆舟岡山を泊りにぞする

死にて臥さん苔の筵を思ふよりかねて知らるる岩陰の露

露と消えば蓮台野にを送りおけ願ふ心を名に顕さん