流れ行く水に玉なすうたかたのあはれあだなるこの世なりけり
消えぬめる本の雫を思ふにも誰かは末の露の身ならぬ
送りおきて帰りし野辺の朝露を袖に移すは涙なりけり
舟岡の裾野の塚の数添へて昔の人に君をなしつる
あらぬ世のわかれはげにぞ憂かりける浅茅が原を見るにつけても
後の世を問へと契りし言の葉や忘らるまじき形見なるべき
後れゐて涙に沈む古郷を玉の陰にもあはれとや見ん
跡を問ふ道にや君は入りぬらん苦しき死出の山へかからで
名残さへほどなく過ぎばかなし世に七日の数を重ねずとも哉
跡偲ぶ人にさへまた別るべきその日をかねて散る涙かな
さくら花ちりぢりになる木の下になごりを惜しむうぐひすの声
あはれ知る空も心のありければ涙に雨を添ふるなりけり
今朝いかに思ひの色のまさるらん昨日にさへもまた別れつつ
露ふかき野辺になりゆく古里は思ひやるにも袖しをれけり
いづくにか眠り眠りて倒れ臥さんと思ふかなしき道芝の露
おどろかんと思ふ心のあらばやは長き眠りの夢も覚べき
風荒き磯にかかれる海士人はつながぬ舟の心地こそすれ
大浪に引かれ出でたる心地して助け舟なき沖に揺らるる
なき跡を誰と知らねど鳥部山おのおのすごき塚の夕暮
波高き世を漕ぎ漕ぎて人は皆舟岡山を泊りにぞする
死にて臥さん苔の筵を思ふよりかねて知らるる岩陰の露
露と消えば蓮台野にを送りおけ願ふ心を名に顕さん