さだめなし風わづらはぬ折だにもまた来んことを頼むべき世か
あだに散る木の葉につけて思ふかな風さそふめる露の命を
われなくはこの里人や秋深き露の袂に懸けて忍ばん
さまざまにあはれ多かる別れかな心を君が宿にとどめて
帰れども人のなさけに慕はれて心は身にも添はずなりぬる
年ふれど朽ちぬ常磐の言の葉をさぞしのぶらん大原のさと
家の風むねと吹くべき木の本は今散りなんと思ふ言の葉
家の風吹き伝へけるかひありて散る言の葉のめづらしきかな
こがらしに木の葉の落つる山里は涙こそさへもろくなりけれ
峰渡るあらしはげしき山里に添へて聞ゆる滝川の水
訪ふ人も思ひ絶えたる山里のさびしさなくは住み憂からまし
暁のあらしにたぐふ鐘の音を心の底にこたへてぞ聞く
新古今集・雑歌
待たれつる入相の鐘の音すなり明日もやあらば聞かむとすらむ
松風の音あはれなる山里にさびしさ添ふるひぐらしの声
谷の間にひとりぞ松も立りけるわれのみ友はなきかと思へば
入日さす山のあなたは知らねども心をかねて送りおきつる
何となく汲むたびぬ澄む心かな岩井の水に影映しつつ
水の音はさびしき庵の友なれや峰のあらしの絶え間絶え間に
鶉伏す刈田のひつち生ひ出でてほのかに照らす三日月の影
あらし越す峰の木の間をわけ来つつ谷の清水に宿る月影