和歌と俳句

西行

春深み枝もゆるがで散る花は風の咎にはあらぬなるべし

あながちに庭をさへ掃くあらしかなさこそ心に花をまかせめ

あだにちるさこそ梢の花ならめすこしはのこせ春の山風

心えつただ一筋に今よりは花を惜しまで風をいとはん

吉野山櫻にまがふ白雲の散りなん後は晴れずもあらなむ

花と見ばさすがなさけをかけましを雲とて風の払ふなるべし

風さそふ花の行方は知らねども惜しむ心は身にとまりけり

花ざかり梢をさそふ風なくてのどかに散らす春に逢はばや

風あらみこずゑの花のながれきて庭に波立つしら川の里

あだにちる梢の花をながむれば庭には消えぬ雪ぞつもれる

散る花の庵の上を吹くならば風入るまじくめぐりここはん

春風の花をちらすと見る夢は覺めても胸のさわぐなりけり

山ざくら枝きる風の名殘なく花をさながらわが物にする

梢打つ雨にしをれて散る花の惜しき心を何にたとへん

吉野山ひとむら見ゆる白雲は咲き遅れたるさくらなるべし

吉野山人に心を付けがほに花より先にかかる白雲

山寒み花咲くべくもなかりけりあまりかねても尋ね来にける

かたばかりつぼむと花を思ふよりそそまた心ものになるらん

おぼつかな谷はさくらのいかならん峰にはいまだかけぬ白雲

花と聞くはたれもさこそはうれしけれ思ひしづめぬわが心かな

初花のひらけはじむる梢よりそばえて風のわたるなりけり

おぼつかな春は心の花にのみいづれの年かうかれそめけん

いざ今年散れとさくらを語らはんなかなかさらば風や惜しむと

風吹くと枝をはなれておつまじく花とぢつけよ青柳の糸

吹く風のなめて梢にあたるかなかばかり人の惜しむ櫻に