何とかくあだなる花の色をしも心に深くそめはじめけん
おなじ身のめづらしからず惜しめばや花もかはらず咲けば散るらん
峰にちる花は谷なる木にぞ咲くいたくいとはじ春の山風
山おろしに乱れて花の散りけるを岩離れたる滝と見たれば
花も散り人も都へ帰りなば山さびしくやならんとすらん
青葉さへみれば心のとまるかな散りにし花の名殘と思へば
あとたえて淺茅しげれる庭の面に誰分け入りてすみれつみてん
誰ならむあら田の畔にすみれつむ人は心のわりなかるべし
なほざりに燒き捨てし野のさ蕨は折る人なくてほどろとやなる
沼水にしげる眞菰のわかれぬを咲き隔てたるかきつばたかな
岩つたひ折らでつつじを手にぞ取るさかしき山のとり所には
つつじ咲く山の岩かげ夕ばえて小倉はよその名のみなりけり
岸近み植ゑけん人ぞうらめしき波に折らるる山吹の花
山吹の花咲く里に成ぬればここにもゐでとおもほゆるかな
真菅おふる山田に水をまかすれば嬉しがほにも鳴く蛙かな
みさびゐて月も宿らぬ濁り江にわれすまむとて蛙鳴くなり
嬉しとも思ひぞわかぬ郭公春きくことのならひなければ
過ぐる春潮のみつより舟出して波の花をや先に立つらん
春ゆゑにせめても物を思へとやみそかにだにもたらで暮れぬる
今日のみと思へばながき春の日も程なく暮るる心地こそすれ
行く春をとどめかねぬる夕暮はあけぼのよりもあはれなりけり