新古今集・春
わが心春の山辺にあくがれてながながし日を今日もくらしつ
新古今集・春
暮れぬとは思ふものから藤の花咲けるやどには春ぞひさしき
新古今集・春
みどりなる松にかかれる藤なれどおのが頃とぞ花は咲きける
新古今集・秋
大空をわれもながめて彦星の妻待つ夜さへひとりかも寝む
新古今集・秋
山がつの垣ほに咲ける朝顔はしののめならで逢ふよしもなし
新古今集・秋
刈りてほす山田の稲は袖ひぢて植ゑし早苗と見えずもあるかな
新古今集・羇旅
くさまくらゆふ風寒くなりにけり衣うつなる宿やからまし
新古今集・羇旅
白雲のたなびき渡るあしびきの山のかけはし今日や越えまし
新古今集・恋
風吹けばとはに波こす磯なれやわが衣手の乾く時なき
新古今集・恋
あしひきの山下たぎつ岩浪のこころくだけて人ぞこひしき
新古今集・恋
あしひきの山下しげき夏草のふかくも君をおもふころかな
新古今集・恋
かけて思ふ人もなけれど夕されば面影絶えぬ玉かづらかな
新古今集・雑歌
難波女の衣ほすとて刈りてたく葦火のけぶり立たぬ日ぞなき
新古今集・雑歌
蔭にとて立ちかくるればからごろも濡れぬ雨ふる松の聲かな
新古今集・神祇
ひさかたの天の八重雲ふりわけて下りし君をわれぞ迎へし
新古今集・神祇
河社しのにをりはへほす衣いかにほせばか七日ひざらむ
新勅撰集・雑歌
春やいにし 秋やは来らん おぼつかな かげのくち木と よをすぐす身は
新勅撰集・雑歌
きのふまで あひみしひとの けふなきは やまのくもとぞ たなびきにける
続後撰集・春
あさみどり 春たつ空に うぐひすの 初音をまたぬ 人はあらじな
続後撰集・春延喜十四年女四宮の屏風に
山みれば 雪ぞまだふる 春霞 いつとさだめて たちわたるらむ
続後撰集・雑歌
あたらしき 年とはいへど しかすがに わが身ふりゆく 今日にぞありける
続後撰集・春延喜十七年、
流れゆく かはづなくなり あしひきの 山吹の花 今や散るらむ
続後撰集・秋清慎公の家の屏風に
いつもふく 風とはきけど 荻の葉の そよぐ音にぞ 秋はきにける
続後撰集・秋
しぐれふる かみな月こそ ちかからし 山おしなべて 色づきにけり
続後撰集・恋
ぬきみだる 涙もしばし とまるやと 玉の緒ばかり 逢ふよしもがな
続後撰集・恋
あはれてふ ことををにして ぬく玉は あはでしのぶる 涙なりけり
続後撰集・羈旅源公忠朝臣 近江守になりて下りけるに
わかれをし 君にまたわか ならはねば 思ふ心ぞ をくれざりける