君を祈る時しもあれや神風の身にしみわたる伊勢の濱荻
月のすむ秋のもなかの石清水こよひぞかみの光なりける
きのふかも絶えぬみあれを御手洗に雲居のつかひ今日やたちそふ
いなりやま峰の杉むら風ふりて神さびわたるしでの音かな
うきよにも露かかるべき我が身かは三笠の森のかげにかくれて
宮居せし年もつもりのうらさびて神代おぼゆる松の風かな
頼むべき日吉のかげのあまねくば宮路のすゑも照らさざらめや
神垣の御前のはまの濱風に波もうちそふ里神楽かな
やくもたつ出雲やへかき今日までも昔の跡は隔てざりけり
まれになる跡を尋ねし熊野山みしむかしより頼みそめてき
もゆる火もとづる氷も消えずして幾世まよひぬ長きよの闇
身をせむる上のこころにたへかねて子を思ふ道ぞ忘れはてぬる
水にすみ雲井にかける心にも憂き世の網はいかが悲しき
波たちし心の道の末はまだ苦しき海の底にすむかな
夢のよに月日はかなく明け暮れて又は得難き身をいかにせむ
玉かけし跡には露を置き換へて色おとろふる天の羽衣
果てもなく虚しき道に消えなまし鷲のみ山の法にあはずば
奥山にひとり憂き世は悟りにき恒なき色を風にまかせて
秋のつき望は一夜の隔てにてかつがつ影ぞ残るくまなき
暗かりし雲さながら晴れつきてまた上もなく澄める空かな