和歌と俳句

藤原良経

西洞穏士百首

敷嶋や大和言の葉たづぬれば神の御代より出雲八重垣

たまつしま絶えぬ流れを汲む袖に昔をかけよ和歌の浦波

風の音も神さびまさる久方の天の香久山いくよへぬらむ

波さわぐ蟲明の瀬戸の楫まくら都にきかぬ濱風ぞ吹く

山ふかき雲の衣をかたしきて千里とのみちに秋風ぞ吹く

今朝みつる雲のあなたの山風に月をばいでてひとりかも寝む

遙かなる沖行く舟の數みえて波よりしらむ須磨のあけぼの

山の端はあるかなきかの波の上に月を待ちつる八重のしほかぜ

住みわびぬ世の憂きよりはとばかりも覚えぬまでの草の鎖しに

ふるさとに通ふ夢路もありなまし嵐のおとを松にきかずば

山の残る雲も烟もたえだえに昔の人の名残をぞみる

憂き世かなとばかりいひて過ぐしけむ昔に似たる行く末もがな

曇りなき星の光を仰ぎても過たぬ身を猶ぞ疑ふ

人の身の終にには死ぬる習ひだにこころこころに任せざりけり

さきの世の報ひの程の悲しきは見るにつけても罪や添ふらむ

苔のしたに朽ち去らむ名を思ふにも身をかへてだに憂き世なりけり

かくてしも消えや果てむと白露の置き所なき身を惜しむかな

數ならば春をしらまし深山木の深くや谷に埋もれはてなむ

長き世の末おもふこそ悲しけれ法のともしび消え方のころ

やがてさは心の闇の晴れねかし三十路の月に雲のかかれる